「廉ッ?!」

「し…慎吾さん」

笑顔



時刻は十時を回った、完全な夜。普通なら晩飯も終えてのんびりと寛いでいる時間。
当然、俺も例外ではなく自分の部屋で音楽を聴いていた。そんな時に携帯がなって、出れば廉が泣きながら何かを訴えかけてきた。

詳しく聞けば、今、俺の家の前に居るらしく、俺は転げ落ちそうな程のダッシュで階段を駆け下りた。

息も落ち着くまもなく玄関を開け放ち、視線を落とせばそこには泣き腫らした廉の姿があった。

泣いてる理由とかどうやってココに来たのかとか聞きたい事は山ほどあるけど、そんな事よりも、まずは部屋に入れて温めないと。
最近の夜は昼の暑さが信じられない位に冷え込んでいる。握った廉の手も、冷たくなっていた。

「ほら、ホットココア。熱いからな」
「ありがと…ござい、ます」

部屋に案内する最中もずっと泣いていて、ベットに腰掛けさせて暫くの間側に居た。
その後一旦部屋を離れて、ココアを持ってきて、フーフーと冷ましながら飲む姿には、もう涙は零れていなかった。

「で、何で泣いてたの?」

何から聞けばいいのか。
取り合えず一番気になったことを聞いてみる。

「あっ…そうだった…」
「えっ?!ちょ…!!」

そう言って、また廉は泣き出してしまった。
恋人の涙を好き好んで見たい奴なんて居るだろうか。少なくとも、俺は嫌だね。

「泣くな…」

優しく囁いて、抱きしめた腕に廉の手が添えられた。

「誰かに苛められたのか?」
「違い、ます」
「じゃなんで泣いてたの?」
「それは…」

また眸に涙が溜まってきた。本当によく泣くと思う。
どれだけの水分が涙用に溜め込まれているのやら。

「廉…声に出して言わないと伝わらないぞ?」
「うう…」
「俺に会いたかっただけならそれでいいんだ。ただ、他の理由なら聞かせてほしい」

我ながら紳士な物言いだと思う。それに安心したのか、廉も何かを言おうと口を開けた。

「た…たん……」
「たん?」

「慎吾さんの…誕生、日……今日 だって 」

ビックリした。
自分でも忘れていた、誕生日。
それを廉の口から聞いたんだ、驚くのも当然。

「え、と…俺…廉に誕生日教えたっけ?」
「教えて もらっ、て ません」

聞いてる最中も、廉の頬に涙が伝う。

ああ、そうか。
泣いている理由は、コレか。

「誕生日を教えなかったから泣いてたのか?」

すると、廉の首は横に大きく揺れた。

「き 聞かなかった、自分が 悪い、です」

器用な考え方をするもんだ。普通なら縦に頷くものだろうに。
なら、なんで泣いてるんだ?俺の誕生日がそんなに悲しい事なのだろうか。

「廉、祝ってくれないの?」

何も考えずに出た言葉。それがいけなかったらしい。
廉は顔面を強張らせ、かたまった。

「お、俺っ…何も買って、なくっ て 」

次の瞬間、本日最大の号泣。驚きに呆けてる暇なんてなかった。

「おわっ、廉?!」
「し、慎吾 さんの 誕生日、に 何も出来なく、て」

「え?」

今なんて?
俺の可愛い恋人さんは、今なんておっしゃいました?

「まさか…廉、誕生日プレゼント用意してなくて…泣いてたとか?」

すると、面白いくらいに上下するふわふわの頭。それにポンッと手を添えて、ガシガシと撫で回す。うわわっ、なんて力の抜ける声を出しながら、廉の顔が上へと上げられた。

「今からプレゼント貰っていい?」
「で、でも……もうお店やって、ない…」

時計を見れば、短針がそろそろ真上を指そうとしていた。



あと数十分で今日が終わる。



「物なんて要らない」
「慎吾、さん?」
「笑って?」
「え?」

「廉の笑顔が見たい」

コチコチと秒針の音。机の上には、冷めたココア。

戸惑いに揺らぐ廉の眸。
そこに写る、島崎の顔。
ちょっと真剣に見つめれば、素直に頷いて。

「お…おめでとう…ございます」

ハニカミ王子も真っ青な苦笑い。
もしもーし、笑えてませんよー。

「駄目。やり直し」
「ええっ…!」
「あーあ。もう直ぐ今日が終わっちゃうよ。廉からは何も貰えず、か」

大袈裟に落胆して見せて。すると、可笑しい位にオタオタとする廉の姿。

本当に可愛くて、愛しくて。家に来てくれただけで、十分なプレゼント。
これ以上貰おうなんて、贅沢過ぎかな?とか思ってみるけど。今日一度も見てない笑顔はやっぱり譲れない。

辛抱強く待つ。
そうさ!俺なら待てる!!ってね。

「慎吾…さん」
「ん?」

チュ。

「――!!」
「フ、フヒッ」

不意打ちのキス。
それは唇では無く、頬に。

「お誕生日、おめでとう ござい ます!」

にっこりと、本日始めての笑顔。真っ赤な頬が更に赤くなって林檎のよう。
泣き腫らした目は少しだけ腫れぼったくて、それでも笑顔に栄えていた。

「ありがとう」

今日は人生初めての、最高の誕生日になった。来年も再来年も、この先ずっと廉に祝ってもらえる。
きっと今の俺は酷く崩れた顔になってると思う。利央なんかには間違っても見せられない、幸せに溶けた顔。





おまけ。


「ところで、俺の誕生日誰に聞いたんだ?」
「あ、えと…河合さんに…聞き、ました」
「和己が?」
「お母さんと一緒にご飯食べに行ったら……そこに河合さんが、いて」
「そこで聞いたのか」
「う、ん。慌ててたら…慎吾さんの家まで送ってくれて」
「おお…。全てに納得がいったよ。で、お母さんには言ってあるのか?」
「はい」
「じゃ、今日は泊まれるんだ」
「う、おっ?!」


「……今夜は寝かせないぜ」




END

慎吾さんハピバ小説でしたvv



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