三橋と付き合って、何度もキスをした。何度も好きって言って、キスをして、

何度も何度も、
カクシンがもてるまで。


不安が俺を情けなくするなんて、考えた事なかった。

初めてのキス



昨日の部活帰り、三橋は用があるとかでさっさと一人で帰ってしまった。残された俺は、疲れた事もあって寄り道をせずに家へと帰った。

ただいま〜なんて気の抜けた声を出しながら玄関で靴を脱いで、腹減った〜って台所へ掛けていった。でも、どこを探せど食べ物なんて見つからなくて。
直ぐにかーちゃんが居間から出てきて俺に着替えろと命令する。意味が判らなくって反論すると、今日は外食だよとニンマリ笑いかけられた。
外食なんて久し振り!!俺は凄い勢いで制服を脱ぎ捨て、玄関で家族が来るのを待つ。外には兄貴が車を出して煙草をふかしていた。
流石に爺ちゃん達は疲れるからと家に残って、いってきまーすと声を張り上げ焼肉屋へと車を走らせた。



駐車場は何処も満員で、第三駐車場とやらに案内された。車を降りて暫く歩くと僅かに漂う焼肉の匂いに俺の腹の虫はグーグーと煩かった。
先行くぞーとか言って、駈けて行っては見たものの、家族一緒じゃないと入れないやと考え直しくるりと後ろを振り返った。



「――三橋!?」



俺の視界に突如舞い込む、薄茶の髪。見間違える訳が無い、三橋の姿。
俺の居る歩道の反対側に、誰かと並んで歩いていた。
瞬時に俺の目はその人物を特定し、確認して驚く自分がそこにいた。

「あれって……武蔵野の榛名じゃ…」



思考が上手く着いていかない。
呆然と突っ立っていたと思いきや、俺の脚は勝手に動き出していた。
考えるよりも行動な自分を、これほど恨んだ日は無い。

「三橋っ」

何時もよりもワントーン低めの声で名前を呼べば、大きく肩を震わせ止まる動き。

「おい、三橋っ!!」

振り返ろうとしないから、もう一度、今度は声を張り上げて名前を呼んだ。すると、緩々とぎこちなく振り返るその態度。
マジ腹が立って、狂いそうだった。

同時に振り返る、その男。俺の顔を見て、あぁ!とか訳の判らない声を出す。

「何やってんの?」
「たっ…田島 くん 」
「ねぇ、何やってんの?こんな時間に」
「あっ…あのっ」
「用事ってこの事?」
「ちっ…違っ…」

顔面蒼白、その言葉が似合う様な三橋の顔。今にも泣き出しそうな瞳を此方に向け、必死に何かを訴える。

それを理解してやるほど今の俺には余裕が無くて、イライラが耳鳴りの様に頭を駆け巡り一向に収まらない。

ずっと睨んでいる俺に恐怖を覚えたのか、とうとう三橋は泣き出してしまった。嗚咽を交え、それでも何かを言おうと必死に口を開いて、冷静さの欠けた俺には苛立ちを増幅させるだけだった。

「おい、突然現れて…何だよお前」

暫く黙って傍観していた榛名が唐突に口を開く。上から見下された感覚が、気分悪い。

「関係ないだろ…」

声を抑えて反論し、未だに泣き続ける三橋をただ一心に見つめた。

「関係無くはないぜ?三橋は俺とデートの真っ最中なんだからな」




デート?それって恋人同士が仲良くするアレの事?

「榛名さんっ!!」

三橋は榛名とデートしてんの?

「田島、くんっ……ち 違う 」

今の俺の立場って何?何で俺、こんなにイライラしてんの?
このイライラは、三橋が俺の恋人で、その三橋が違う男と歩いていて、腹が立って…





「田島くんっ!!」

なんか意味が判んなくなってきた。
三橋は違うとか何だとか言ってるけど……関係ないや、別にどうでもいい。

つまり、俺は二人の邪魔をしたって事でいいんだろ?

「なんだ、デートだったんだ。悪ぃ邪魔した!!」

コロッと変わる表情。軽く手を上げ、俺は親の待つ焼肉屋に戻っていった。
後方から三橋の声が聞こえるけど無視して、忘れろ忘れろと自分に呪文を唱えていた。





次の日、三橋は学校を休んだ。
泉はどしたんだろうと心配してるけど、俺は何も感じなかった。
帰りに様子を見に行こうと勝手に決められて、勝手に俺の首が頷いた。



部活も無事終了して、俺と泉は授業で貰ったプリント片手に門を出た。
プルルルル―…突然、泉の携帯が鳴った。もしもしと会話を始めて、

「悪ぃ、田島一人で行ってくんね?」
「なんで」
「友達が家の前で待ってるんだって」
「ふーん。判った」

何故か俺一人で三橋の家へ行く事となった。





ピンポーン。
呼び鈴を鳴らす。

はーいと高めの声が扉の奥から聞こえた。直ぐに開けられ、出てきたのは三橋のかーさん。にこにこと俺を迎え入れ、今日は迷惑かけたねって謝ってきた。
廉は寝てると思うけど。そう言いながらも、勝手に部屋入っていいわよって背中を押す。

階段を上っていると慌てて呼び止められて、どうしたんすか?って聞いたら今から仕事で居ないから何も出来ないけどって断りの話。
お構いなく〜って適当に笑って、俺は三橋の眠る部屋の前に到着した。

「三橋〜」

返事は無い。

「入るぞ〜」

言葉と重ねる様に、俺はドアを開け中へと入っていった。



「三橋?」

目の前には布団の山が出来上がっていた。どうやら潜っているらしい。
寝てるのかな?そう思って、側による。

「たじ、ま…くん?」
「ん?起きてんの?」
「ひ…一人?」
「うん」

消えそうなほど小さな声で、三橋はそう確認すると、ゆっくりと布団から出てきた。
パジャマ姿で髪はボサボサで、目は泣き腫らしたのか、真っ赤になっていて。

俺は黙って見ていた。座る訳でもなく、ただ呆然と。
すると、三橋は布団から完全に体を出して手を差し出す。答えるように手を伸ばせば、今まで感じた事の無いほど冷めた手が俺を包み込んだ。

「体調悪いの?」
「……ない…」
「え?」
「体調…悪く、ない」

三橋は下を向いたままでも手は離さず、俺は三橋の居るベットへと腰掛けた。
と、それを待っていたかのように抱き付いて来た。ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられた直後、ごく小さくすすり泣く声。

「三橋…泣いてんの?」
「ごっ…ごめっ…」

直ぐに何を言いたいのか判った。
昨日の事、何も解決しないまま今に至ってるから。

「昨日の…ちが、う…から」

そのまま黙って三橋の話を聞いた。
昨日の用事とは、知り合いが来るから家に居なさいと母親に言われて、帰ったらお使いを頼まれて近所のコンビニへ。丁度そこで出くわした榛名とたまたま話をしていた所で俺に呼び止められた。

と、そんなありきたりな話。
で、そのありきたりな話を理解しないまま帰った俺。

「たじま、くん…何で…泣いて…」
「っ――!」

言われるまで気付かなかった。三橋はそっと俺の頬に手をやる。
その濡れた感触は、間違いなく俺の目から出たやつで。

「田島、くん……ごめんね」

何度も何度も三橋は謝る。二人して泣いて、ほんと格好悪い。

あの時俺は本当にどうでもいいって思ってたし、学校でもなんとも思わなかった。三橋の家に着いたって、それは変わらなくて。

でも何でだろ。
三橋に抱きしめられたらどんどん体が熱くなって、三橋が必死に話してそれを聞いて、そしたら勝手に涙が出ていた。

「三橋は俺の恋人?」
「俺は、田島君の恋人、だよ」
「信じていい?」
「うんっ」

真っ直ぐに俺の目を見つめる三橋。信じていい?の言葉にはっきりと頷く。

なんだ、そうか。
俺はその言葉を聞きたかったんだ。

三橋の恋人として現実味が無くて、三橋は優しいから、俺が勝手に思ってるだけだと思ってたんだ。
だからあの時何も言えなくて、挙句、どうでもいいやって自棄になったんだ。

馬鹿だ俺。

「た、田島君は俺の…恋人?」
「え?」
「ち 違うのっ……」

考えに耽っていたから、三橋の問いかけに返事しそびれた。すると途端に三橋の表情は曇って、また涙をボロボロ泣き出した。

「わわっ、ごめん!!」
「俺…毎日不安でっ…」
「不安?」
「田島、君が俺の事…嫌いになったらっ、て」
「嫌いになるわけないじゃん!」

ギュウッ!今度は田島が三橋を抱きしめる。

「……フヒッ……良かった」

お互いに、やっと笑みが零れる。一緒の事考えてたんだね〜とか話をして。

「キス、しよ?」
「うん」

初めてでは無いのに、何か新鮮だった。



きっとこれは恋人としての初めてのキス。



今度榛名に会ったら真っ先に言おう。
三橋は俺の恋人だからって。んで、ゲンミツにデートをしよう。




END

三橋の性格を判っている筈なのに、判ろうとせずに諦めてしまう田島。
青春っていいね☆って感じていただけたら嬉しいんですが(無理ですね;)



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