『安心』てさ

心が安らぐだけ。
それ以上でも以下でもない。

頭は違う事考えてるよ。


さて、俺は何を考えてるでしょう。

いと



「三橋ー、阿部が呼んでるぞ」
「ぅあっ…はいっ!」

授業と授業の間には当然、休憩時間が設けられていて。教室から出るなとか、そんなふざけた決まりも無い。だからクラスが違うヤツも平気な顔して教室を出入りする。

「また阿部ぇ〜…毎回毎回何しに来てんのぉ?」
「俺が知るかよ。でも最近頻繁に来るよな」
「三橋もホイホイ近付くからさ…俺、嫉妬しちゃうよ」

窓際の席から廊下で話す二人を見る。泉は直ぐに視線を田島へと戻した。

「言ってる割りには穏やかじゃん」
「ん〜…」
「何だよ。言いたい事あんなら聞くぜ?」

世話係りも慣れた泉は、机に肘を付いて田島を覗き込む。田島は漸く三橋から視線を外して、泉へと向き合った。

「好きって言ったんだ」
「誰が?」
「三橋がさ。俺が好きって言ったら、俺もだよって」
「その話は前に聞いた」

泉は話を聞くと言った割りに頷く素振りを見せない。むしろ聞き飽きたと言わんばかりにおおあくび。
言えって言ったのはそっちじゃん!
田島に言われ泉は背筋を伸ばし、悪ぃと適当に謝ってまた田島は話し出した。
「赤い糸って泉は信じる?」
「赤い糸?運命の〜とかってやつ?」
「そう。その糸」
「信じるも信じないも、女子が勝手に考えた想像上のモノだろ」

スッパリと言い切って。
あまりにも乙女チックな台詞に、泉は心配そうに田島を眺めていた。

「俺は信じてるんだよね」
「おいおい…」
「だって、赤い糸が見えたもん」
「……俺以外にそんな事言うなよ?変な目で見られるからさ」
「なんで?本当の事言っただけじゃん」
「はいはい。でも止めておけ」
「ちぇー…」

つまんない。
田島は不貞腐れながら椅子の背に体重を預ける。ギィっと接合部が鳴って、ゆらゆら揺れて。

「糸があるって判ったら、安心したんだ」
「え…?」
「この先さ、三橋と離れ離れになっても俺たちは恋人同士なんだって」
「三橋の気持ちは無視か?」
「同じ事言ったよ。三橋も赤い糸見えたって」

言いながら田島の視線は三橋を見据え、以心伝心とまではいかないがそれに気付いた三橋はそっと田島に笑顔を向けた。

側に居る阿部は面白くなさそうにこちらを睨む。バチリと目が合った泉は、なんで俺なんだよと阿部を睨み返す。

「だから泉も諦めてね」
「何を」



「三橋を狙うのを、さ」



「――ッ?!」

ガタタッ!
凄まじい音をたて、椅子が床へと倒れた。今まで座っていた泉は棒立ちで田島を凝視。
重い沈黙が二人の間を駆け抜けた。

「知らないと思ってた?」
「……」
「ずっと前から気付いてたんだよねー」
「……ッ」

下から見上げる田島の目は、試合中にも滅多に見る事のない真剣なまなざしで、全てを見透かされそうな、そんな恐怖に泉は一目散に自分の席へと戻ってしまった。



その後ろ姿を見つめる田島。





僅かに口端が吊上がったのは、本人しか知らない。




END

題名の『いと』は『糸』とも取れるし『意図』とも取れる、そんな感じで付けました。



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